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現代に正戦はあるか
ラウレンチオ 小池二郎神父
 3月19日(聖ヨゼフの祭日)、全世界の平和を望む人の意に反して、イラク戦争が始まりました。 そんな今でも、この戦争は必要だったか、また現代にもカトリックの教えに沿った正戦がありうるかを問うことは必要だと思います。
 開戦三日後、3月21日の朝日「天声人語」は次のように書いています。
 「古さついでに中世の神学者アクイナスを引けば、彼は、『正義の戦争』に三つの条件を挙げた。 ①公に是とされる②正しい理由がある③動機がゆがんでいない。 国際社会が分裂し、国連の枠を外れての開戦だから、少なくとも①を満たしていない。 どうやら神学者の眼鏡にもかなわない。 国連抜きの開戦は赤裸々な力の衝突ということで、 19世紀型の主権国家同士の戦争という感じにも襲われた。…どこで道を誤ったのだろうか。」私もこの主張に賛成です。
 アクイナス(聖トマス・アクイナス)は教会が一番大切にしている学者です。 お恥ずかしいながら、この個所の原文はこれまで読んでいませんでした。 その上、彼の正戦の条件は4つだったと思い込んでいたり、天声人語に略して書かれている 「公に是とされる」の意味が今一つはっきりしなかったので、原典を調べました。
 該当個所は、神学大全Ⅱ-2(セクンダセクンデ)第40問題第1項で、日本語訳もあります。(創文社刊の神学大全第17巻78-82頁)
 ある戦争が正しいものであるためには、三つのことが必要であって、 原文で、①に当たるものは「第一は、そのひとの命令によって戦争が遂行されるところの、 君主の権威がそれである。 というのも、戦争を引き起こすことは、私人に属する仕事ではないからである。」
 私見ですが、イラク戦争を正当に始めるためには、少なくとも、 今は国連安保理における武力行使の決議が必要だったのではないでしょうか。
 ②に当たるものは「第二には、正当な原因が必要とされる。…アウグスティヌスは『問題集』において、 『正しい戦争とは不正を罰するところのものと定義されるのが普通である。 すなわち、民族や国が、その成員によって不正になされたことを糾すの を怠ったり、不正によって横領したものを返却するのを怠ったりして罰せられるべきである時に、 その不正を罰するのである』と述べている。」  ③に当たるものは「第三に、戦争する人達の意図が正しいことが要求される。 …たとえ戦争を宣する合法的な権威が存し、かつ、正しい原因が存しても、 なお、歪んだ意図のために戦争が非合法的なものになることもありうるのであって、…」
 つぎに、「カトリック教会のカテキズム」を取り上げます。 この本では戦争の問題を神の十戒の第五戒『汝殺す勿れ』の問題として取り上げています。
 1. 国あるいは諸国家に及ぼす攻撃者側の破壊行為が持続的なものであり、しかも重 大で、明確なものであること。
 2. 他のすべての手段を使っても攻撃を終わらせることが不可能であるか、効果をも たらさないということが明白であること。
 3. 成功すると信じられるだけの十分な諸条件がそろっていること。
 4. 武器を使用しても、除去しようとする 害よりもさらに重大な害や混乱が生じないこと。現代兵器の破壊力は強大なので、当 条件についてはきわめて慎重に考慮すること。

以上は、いわゆる「正当な戦争」論に列挙されている伝統的な要素です。(675頁)
 「カトリック教会のカテキズム」の示すこれらの4条件のうち、果たして、 第三以外に今回の戦争で認められるものがあるでしょうか。 わたしは武器の査察ももっと続けるべきではなかったかと思います。
 また、少し先になりますが、戦争終結後、この戦争の歴史的意義を多くの人が真剣に考えることがきわめて重要であると考えています。